紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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 論文の紹介

 白川勝信(2007) 地域の自然が博物館 −フィールドミュージアムの活動ー 

                 日本生態学会誌 57巻2号: 273-276.

 本論文は、「博物館と生態学」というタイトルで日本生態学会誌に連載された中の一編である。著者は、「北広島町立高原の自然館」に勤務する学芸員であり、生態学研究者として、中国山地の一角に位置する高原で調査研究を行いながらフィールドミュージュアム活動を実践しており、これらの体験を元に、様々な側面から表記のテーマを論じている。

 まず、はじめに、著者は従来の博物館の展示では、乾き物の標本が展示されており、生態学の目で見た時に、物足りなさを感じることがあるが、これを解決する1つの回答としてフィールドミュージアム活動があるとしている。生きている本物の生物や、生物の生態学的なあり様は、フィールドミュージアム活動を通じてこそ見ることができるとしている。本論文では全国各地で展開されているフィールドミュージアム活動を紹介し、生態学研究者との関わりについても述べている。


 著者は、「フィールドミュージアム」という言葉は、フィールドそのものを博物館として捉え、そこにある事物や事象を博物館の展示物とする概念である」と述べている。フィールドミュージアムの活用には、「現地にあるがままの自然の整理(どんな生物等がいるかの目録作成(筆者解釈))、保存(保全:継続的なモニタリングが必要)、展示、研究が必要であるとしている。

 著者はまた、フィールドミュージアムと博物館とが連携することによって、双方の効果が大きくなると述べている。例えば、フィールドでの展示によって博物館を知る機会が増え、博物館の展示によってフィールドでの理解が増す。また、博物館活動の一環としてフィールドを活用することによって博物館活動に参加する仕掛けが作りやすくなると述べている。

 さらに、小さな博物館では、小さいからこそできることがあると述べている。それは、学芸員が地域コミュニティーに参加したり、地域住民等と接点を持ちやすく、地元の小学生を対象とした環境教育にも貢献できる。また、小さな博物館の仲介によって、一般市民の参加と地域住民の理解と協力を得て、地域の生態系の適切な利用と保全を両立させることができるなど、地域に密着した活動が可能であるとしている。

 最後に、生態学研究者とフィールドミュージアムとの関係について述べており、まず、生態学研究者が地域の生態学的な調査を行うことによって、その地域の生態系について来訪者等に最もよく説明ができること、また、生態学研究者のフィールドでの調査結果は、学会や学術論文など一般の人の目に触れないところで発表されている場合が多いが、調査結果を博物館に持ち込み、分かりやすく展示することによって、研究成果を一般市民や地元に還元でき、地域住民等による地域の生態系保全や地域学習の動きを喚起する可能性があると述べている。

 ところで、最近、三重県では博物館の在りようを巡り、様々に議論されているが、著者の「小さな博物館」活動の経験に根ざした様々な見解は、博物館と地域との関係を考えさせる素材となると思われる。この論文から、博物館が地域の自然や文化遺産の収集、整理、保存、展示とそれらの研究を行いつつ、地域における自然と文化の保全・保存活動に地域住民とともにかかわりながら、地域の活性化にも貢献するという、博物館と地域の相互のダイナミックな発展の関係が重要だということが想起される。

 以前に、このホームページで「エコミュージアム」に関する本を紹介したが、本論文で述べられたことは、エコミュージアム活動とも通ずるところがあると思われる。そして、これらのことから、博物館活動は、従来の活動の上に、一般市民とともに地域と一体となって、あるいは連携して、地域の自然、文化、歴史遺産を掘り起こし、その保全と調査研究を進めることによって、地域の発展にも貢献していくことが重要であることが分かる。(2007.10.16 M.M.)
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